競争が激化するIT業界において着実に業績を伸ばしてきたIT企業のA社。 業績好調の事業のなかで新たな中期経営計画を発表し、社員数100名弱から3年で約3倍の300名まで増員する方針を打ち出しました。 ところが、ここで大きな問題が発生。人事責任者のTさんは、当時の悩みを次のように明かしてくれました。
「それまで、うちは毎年4月の新卒採用と、欠員補充の中途採用が中心で、事業の成長に合わせて戦略的に中途採用を行うという考え方はありませんでした。 社員数を3倍にするという計画が決まってから、即戦力の中途採用を大幅に拡充する必要に迫られ、ひとまず以前から付き合いのある人材紹介会社と、 新たな契約した数社の人材紹介会社にサポートを依頼したものの、採用はなかなか進まず、入社に至るのは頑張って月に2~3人程度。 事業計画に採用が追いつかないため、一部の事業がペンディングになったり、人材不足で現場が疲弊してしまったり、 さらには、外部の人材を業務委託で多用せざるを得ない状況になって、利益率が当初計画したより大幅に低下。 中途採用をもっと効率的に行うことが人事に課せられた大きな課題でした。」
中途採用マネジメントを一から見直してくれないか――。
同社からプロッソに声がかかったのは、中期経営計画の策定から半年が経ち、 採用の遅れが事業展開の大きなブレーキになりつつあることが徐々に明らかになってきた頃でした。
A社の依頼を受けて、プロッソはさっそく採用プロセスの調査・分析を実施しました。 その結果さまざまな課題が浮かびあがりましたが、なかでもクリティカルだったのは採用ソースとタイミングの問題です。 採用ソースについては、新聞やWebによる公募、スカウトメール、登録型人材紹介会社、ヘッドハンティング会社、ハローワークなど、いろいろなものがありますが、 同社は登録型の人材紹介会社一本に絞っていたのです。 また、採用のタイミングについては、現場で人材需要が発生したらとにかく早くそれを人材紹介会社に伝え、いかに早く選考を進めるかということしか考えられていなかった。
「当初、採用ソースについては、公募によって質の低い候補者が多く集まっても社内に対応するマンパワーが足りないと考え、人材紹介会社のみに頼ろうとしていました。 より多くの人材紹介会社に声をかければ、単純にそれだけ量も確保できると思っていたのですが甘かったですね。 それからタイミングの問題にしても、会社としての大幅な人員増は決まっていても、個別の採用枠を確保するためには個別の承認が必要ですし、 社員が退職をするというような情報が人事に来るのも概して遅く、今から見れば、 採用活動そのものというよりは採用活動を開始するための調整や準備に長い時間がかかっていたように思います。」(前出・Tさん)
さらに期待していた人材の質についても不満が残ったとか。
「うちが求めていたのは、一定のスキルを持った若手と、事業の指揮を取れるマネジメント。 どちらもバランスよく採用したかったのですが、人材紹介会社にうまく伝わらなかったのか、若手ばかりに偏ってしまって……」
そうして、最大の課題は、求人ポジションに関係ない単調な採用ソースと事業展開に大きく遅れていた採用のタイミングであるとの認識を共有することになり、 採用戦略を組み直す方向性が固まってきました。
具体的にどのように採用ソースのポートフォリオを組み直したのか。
プロッソが一番注目したのはリクルーティングの強化です。
採用プロセスはリクルーティング(採用枠の有無に関係なく行う応募者予備軍の確保)とハイヤリング(実際の選考や雇用)に分けられますが、
従来はリクルーティングを行う意識はなく、採用枠ができるたびに人材紹介会社に紹介を依頼していただけ。
そこで自社で恒常的にリクルーティングを実施し、応募者予備軍の確保に努めることにしたのです。
リクルーティングの中で着手したものの一つが社員紹介です。
実はA社にも制度としては社員紹介の仕組みが存在していました。
しかし、社員紹介で入社するのは、せいぜい年に3~4人。
そこでリクルーティング活動と社員紹介を組み合わせて展開し、社員にその重要性を説いたり、社員紹介を行うことを自分の業務と意識させることなどをはじめ、
数多くの施策を打ち出して、採用カルチャーの醸成に努めました。
「最初は大変でしたよ。社員紹介制度を説明しても、 『そんな制度あったの?』とか『知ってるよ。紹介できる人がいればとっくに紹介しているよ。』というレベルの対応が多かったですから。 でもフォーマルな場所に限らず、喫煙室やエレベーターの中などアンフォーマルなシーンでも積極的に働きかけたり、 プロッソさんの言う4段階の社員紹介依頼の方法などを実践したところ、徐々に反応が変化。 現場の社員から、『こういう人がいるんだけど、うちに引き抜けないかな』とアプローチしてくれるようになりました。 プロッソさんの言う『社員紹介の成功には採用カルチャーの醸成が必要』という意味がようやく腹に落ちたような気がしました。」
そして併せて、社員紹介制度以外のいくつかの側面からもリクルーティングを進めていきました。
社員紹介制度をはじめとした採用ソースの多元化により、採用人員は大幅に増加。 それまでの月2~3人ペースから、年間で100名強の採用が実現できるようになりました。 採用部門に1名の増員を行ないましたが、リクルーティング部分の施策はほとんどコストをかけずに行ったことや、 社員紹介が大幅に増加したため、一人当たりの採用コスト(CPH=Cost Per Head)も従来比で2/3まで軽減することができました。 このまま行けば、今期は1/2まで落ちる見込みです。
「事業展開にドライブがかかったことは強調したいところですね。 リクルーティングの強化によっていつでもアプローチできる人材が常に一ある程度確保されているため、事業展開に合わせた迅速な採用活動をできるようになりました。 また人材紹介会社との付き合い方を見直した結果、それまで手薄だったマネジメント層の採用も増え、 おかげさまで、当初は採用が足を引っ張って達成困難と見られていた売上目標も、年間では無事に達成することができました」
一連のコンサルティングを振り返り、最後にTさんはこう感想を明かしてくれました。
「プロッソさんが我が社に合った採用施策をいろいろ提案してくれたおかげで、最終的に採用計画も達成できました。 最初はそこまで細かい施策が必要なのかとも思いましたが、今から思えばどれも必要だったのだと感じます。 ただ、それ以上に有りがたいのは、社内の人事に対する雰囲気が変わったこと。 現場の社員が採用を人ごとではなく自分たちの問題として捉え、リクルーティングから面接、新入社員の受け入れ、育成まで、積極的に関わってくれるようになりました。 それに今までは、人事が現場の言いなりになる場面も多かったのですが、 人事のメンバーが採用の専門家として全社の採用を計画しリードしながら進めることができるようになりつつあると思います。人事責任者として、こんなにうれしいことはありません。」
現在、A社は中期経営計画の2年目の後半に入っており、採用業務が足を引っ張ることもなく順調に推移しています。