設立趣意

食品は人類が健康で豊かな生活を送るうえで最も重要な物質であるにも拘らず、その学問的体系化への試みは化学や医薬の分野に比較して軽視されがちである。食品は多成分系であることや食品の調製や製造過程は多くの現象が絡み合った複雑系であるなどの理由から、これまで産業系ではともすれば経験や実績に頼りがちであり、一方、大学などの研究機関においては実際とはかけ離れた単純な系を取り扱う傾向にあった。しかしながら、食品産業の将来および21世紀には直面する食料・エネルギー・環境問題を勘案するに、基盤となる諸学問領域の再構築を図ることが急務であり、一刻の猶予も許されない状況である。

食品産業の発展のためには、食品科学(Food Science)に十分な基礎をおくことは言うまでもないが、既往の対応では必ずしも十分とは言えない "Food Engineering" をより重視した取り組みが必要不可欠であると考える。"Technology" と "Engineering" は日本語ではいずれも "工学" という同じ言葉で表され、混同して使用されているが、本来両者は別の学問体系である。"Technology" は個別的技術であり、"Engineering" は "Science" に裏付けされて普遍的工学手法として発展させた技術体系であり、"Engineering Science" というべき意味合いをもつ語である。

本学会では Technology に終わるのではなく、Technology を越えて Engineering Science まで高揚させることを強く願う研究者および技術者の集まりを目指している。

食料、エネルギー、環境問題を視点におきつつ、安全で、食味・食感特性に優れ、体調の調節に寄与する食品を構築し、その効率的生産を目指す研究者および技術者にとっては、このような意味での工学に拠り所をおいて研究・開発に携わることが頗る重要であるとともに、このフィロソフィーを食品産業の未来を考える際の共通の認識とする必要がある。国際化が加速的に進んでいる状況の中で、食品企業にとってはこのような工学の蓄積こそが国際競争に耐え抜いていく最強の方策であり、その場しのぎでおざなりの技術を利用するというやり方だけでは活路を見出すことは困難である。しかしながら、食品に関する工学の重要性は強く認識されてはいるものの、学問的な華やかさにやや欠け、縁の下の力持ち的存在であることなどがら、意欲をもった若手研究者の輩出を困難にしたり、企業においては、つい目先の短期的目標に忙殺されて、工学的基盤の蓄積を怠るなどして、その進展が遅れている。研究者および技術者が互いに切磋琢磨、勇気付け、精神的支援をするために、このような食品に関する工学を前面に押し出した日本食品工学会を創設することが不可欠と考える。

一方、食品工学の分野では、国際食品工学会(ICEF6, ICEF7)や食品工学(特別)研究会の活動の実から明らかなように、食品加工の過程で発生する諸現象の解析の急速な進歩が見られるのみならず、従来の食品工学が包含する分野とはまったく異なる分野からも食品工学への参入が始まり、必定まったく斬新な方法論の導入が試みられるようになってきた。このような芽生えも、食品分野において工学を全面に掲げ、広い分野の研究者、技術者を結集した新規の学会を創設したいと願う大きな動機である。

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